日本列島における「語り」を、古代と民間伝承とを往還しながら考察し、それがどのような様式をもって語られるか、どのような心意をもって語られているか、なぜ語られるのか、というふうな問題を課しながら研究を進めた。 平成14年度は、とくに『古事記』における伝承性という問題を中心に考察し、多くの成果を得ることができた。その第一は、『口語訳 古事記』(文藝春秋)を刊行したことにより、多くの読者の注目を得ることになり、そこからの展開として、文芸誌『文學界』(文藝春秋)への連載(4回連続)を開始することになり、その原稿執筆に研究の成果を発表することができた。とくに、『古事記』の神話や伝承にみられる「語り」「叙事詩」「伝承者」「ほかひびと」などの問題を詳細に論じることができたのではないかと考えている。 また、民間伝承の研究としては、アイヌと東北とに伝えられる「ミンツチ」(河童)の伝承を取りあげ、その両者の影響関係や伝播の問題、語られる内容の分析などを行ない、雑誌『東北学』7号に掲載することができた。 調査研究としては、岩手県遠野市およびその周辺における民間伝承の調査、大分県における宇佐神宮の祭祀・伝承や国東町のケベス祭りの調査、新潟県東頚城郡における「人柱」伝説の調査など、ひろく古代および民間の伝承を考えるための基礎的な研究を推し進めることができた。 また、今回の科学研究費のもう一つの柱であるデータペースや資料のWEBにおける公開準備のため、古代の伝承文学研究に関する論文の入力作業を、学生のアルバイトを動員して行なっている。この作業は、来年度以降にも継続される課題である。 以上、平成14年度においては、研究課題に沿った研究を滞りなく実施することができ、さまざまな成果を得ることができた。これを、来年度以降の研究に繋げてゆきたいと考えている。
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