日本列島における「語り」について、古代と民間伝承を往還しながら考察し、それがどのような様式をもって語られるか、どのような心意もって語られるか、なぜ語られるかというふうな課題を解明するために、前年度に続き研究を進めた。 平成15年度は、「11.研究発表」に記したように、古代および口承伝承の両者について、研究を深めることができた。ことに『古事記』研究に関しては、前年度からの研究をまとめて『古事記講義』(文藝春秋)を刊行することができ、平成13年度に出した『口語訳 古事記』(文藝春秋)と併せて、古事記研究の大きな整理をつけることができたのではないかと考えている。また、民間伝承については、「貴種流離」「落人伝説」「キツネ伝承」などについて、自分なりの見解を提示することができたと考えている。 一方、私の所属する独立大学院社会文化科学研究科の年度研究「社会化作業部会」と共同で、「語り」の社会還元を実施したというのも大きな成果であった。具体的には、「きき耳広場」と名付けた一般市民、とくに幼児・小学生とその両親をターゲットとして、耳で聴くことの重要さを再認識するために、さまざまな語り手・演じ手を招き、4回にわたって公演を行った。これは、社会還元という意味でも、大学院の教育研究の上でも、私自身の語り研究のためにも、大きな成果をあげることができた。できれば、次年度にも継続できればと考えている。 また、データベースを充実させるための、文献目録の打ち込みも、予算の範囲内で実施した。前年度からの継続となる、古代の伝承文学関係の論文データの入力である。 平成15年度の研究は、予期しない役職に就いたために十分に時間をとれないという困難もあったが、当初の計画どおり推進することができ、さまざまな成果を得ることができた。関係各位に感謝したい。
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