当該研究期間における主な研究成果は以下の通りである。 1、『風流線』における橘南渓『東遊記』の影響。『風流線』「手取川」で、工夫たちが手取川上の空中を飛行する男女の姿を目撃し、それを二柱の神と考えて地震や津波の前触れかと噂し合う場面は、『東遊記』巻之二「松前の津波」に拠る。 2、『白牛』における『白縫譚』第二十七編(柳下亭種員作)の影響。『白牛』の遊女屋の女主人の形象は、『白縫譚』で牛のイメージで描写されるお牛に拠る。 3、『風流線』『続風流線』における草双紙の影響。 (1)草双紙的見立て。本作は大津絵の枠組みで捉えられており、滑稽性や伝奇性が顕著なことなどから、作品全体は草双紙に見立てられていると考えられる。 (2)俵藤太秀郷のムカデ退治譚を踏まえ、お龍と巨山の対立が設定されている。 (3)柳亭種彦『偐紫田舎源氏』の影響。仲働のお辻が双眼鏡で見回す趣向は、『偐紫田舎源氏』第二十編に拠る。また、幸之助が美樹子にわざと言い寄ったところ、彼女の方も幸之助を養子とした上で姦通しようと持ちかける設定は、『偐紫田舎源氏』第二編に拠る。 (4)二世柳亭種彦作・二世歌川国貞画『七不思議葛飾譚』第六編の影響。『続風流線』「七箇の池」で、三太の養母がヒロインお龍の絵姿を調伏する場面は、『七不思議葛飾譚』で、厚ぎの姥がま萩の方の絵姿を板に張り付け、ヒキガエルや蛇などを供えて呪詛する設定に拠る。 4、『夜叉ケ池』における柳亭種彦『綟手摺昔木偶』の影響。前者の舞台「越前国大野郡鹿見村琴弾谷」は架空のもので、『綟手摺昔木偶』冒頭、女仙赤魚が住む「琴引谷」に拠る。また、末尾で赤魚が飛び去るときの地震も、『夜叉ケ池』末尾のそれと対応する。 5、『神鑿』における馬琴『頼豪阿闍梨恠鼠伝』の影響。『神鑿』で、人形の精が坊主と双六を打つ場面は、『頼豪阿闍梨恠鼠伝』巻之二に見える、双六を打つからくり人形に拠った可能性が高い。
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