本年度は、昨年度に引き続き、まず資料の収集と整理に努めることとし、北條・高橋家文書を中心に、他の文庫等をも調査した。また、以前の共同研究である「文献学・歴史学の方法を活用した森鴎外『北條霞亭』の総合的研究』において収集した写真資料の整理、検討も、引き続き行った。さらに、他の研究者が収集していた資料も借り受け、資料の充実に努めた。 本研究の基礎付けとして、既往の研究成果や関連する学問分野の学習を初年度から行ってきたが、それにも引き続き取り組んだ。具体的には、鴎外研究の最新の成果を整理し、位置づける、近世儒学関係の研究動向を探り、その問題点を検討する、北條霞亭に関係する儒学者たちについての知識を深める、といったことであるが、本年度は特に最後の点について集中的に取り組んだ。近世の儒者たちが共有していた教養や表現の基盤が、現代においては決定的に失われていること、それが史伝の難解さの原因であることは昨年度述べたが、それを欠いては『北條霞亭』の真意は把握できないと考えて取り組んだわけである。その溝が十分に埋まったとは言い難いが、そうした学習を経て文書を見直してみると、北條家、高橋家の内部でも、そうした教養の基盤が失われていく過程が読みとれるように感じられた。 本年度は、研究のとりまとめの年であるので、やや広がりすぎた研究の方向性をまとめることとし、鴎外の作品と密接に関連する資料の位置付けを行うとともに、その資料を提示すること、北條・高橋家文書の中から研究に有用な資料を抜き出してまとめること、北條霞亭の事跡そのものについて、鴎外の考証の問題点を考察すること、などを行い、その結果を研究成果報告書として提出する。
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