『兼載雑談』の本文校訂と全項目についての注釈が完了し、三弥井書店から『歌論歌学集成大十二巻』として、2003年3月末迄に刊行の予定である。この項目を注釈する作業を通じて得た知見を以下に述べる。 (1)和歌・連歌の知識については「梵灯庵主袖下集』などと共通する連歌師の秘伝の他に、先ず歌語注・名所注・古歌の注釈・清濁・歌題理解といった正統的な知識についての記事がある。一方、寺社縁起・中世神話・太子伝・高僧伝などの神祇釈教に関わる話題が頻繁に取り上げられる。それらは古今注をはじめとする和歌注釈や和歌説話に含まれる場合もあるが、むしろ節用集・下学集・運歩色葉集などの中世古辞書類と共通するものが散見された。古辞書の世界と中世連歌師の知識には通底する部分があることが予想され興味深い。また、公家や武家の家伝・系図に対する目配りも注目される。連歌会の運営や式目といったものと同様の、連歌師としての活動においてきわめて重要な心得であった。 (2)歌論・連歌論については基本的に歌人・連歌師の逸話や言説、作品批評に結びつけて述べられているのが特徴である。その記述の中に兼載の批評や好悪、価値判断が自ずとうかがわれ、彼の庶幾する理念が明らかになっている。具体的には師である心敬の説を中心に冷泉歌学を主としながら、二条流・京極流の家説をも柔軟に取り入れて最終的には俊成・定家・西行の「余情」を理想とする非常にオーソドックスな中世的美意識である。ただしその境地に達するための心得として和歌連歌以外の入木道・碁・尺八・蹴鞠といった芸道を援用し、また「数寄」という芸術至上主義的理念とともにきわめて現実的・世俗的配慮と指示が共存している点が他に類を見ない「雑談」になっている。
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