近世前期の出版規制は、その後期における程に具体化されているわけではないが、その取締りの対象は、内容をほぼ同じくすると見てよいと思われる。明暦3年以後、寛文13年、貞享元年などに発令された取締り令により、作者や書肆は相応の規制を受けることになるが、その発令以前から自主規制と見られる書き方が数多く文芸に生じていることが確認でき、また発令後は、その内容を意識しての自主規制やカムフラージュの様相を具体的に見ることができる。本研究は、主として仮名草子・浮世草子を対象としつつ、そのような文芸の様相をさぐり、作者の意識や方法を明らかにすることを目的としているが、これまで、その成果の一部として、『清水物語』や『浮世物語』、『信長記』の一面などについて考え、西鶴の浮世草子のいくつかに触れて来た。今年度において成果の公表は、「『日本永代蔵』成立論への諸問題(上)」及び「『好色一代女』の諷刺小説的側面」の二論のみであるが、それらは、上記の問題の一部をとりあげたものである。また、仮名草子の諸作品、西村本の浮世草子、西鶴の諸作品についても触れるべき物が多く、少しづつではあるが検討を行い、研究の公表のための準備を行なっており、近年中には発表することができると思う。なお、本研究と直接な関連を持っているわけではないが、共編の『日本国語大辞典(第2版)』の別巻が刊行され、長期間にわたって続いて来た同書の仕事が完結することになった。
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