本年度も昨年度に引き続き、仮名草子・浮世草子の諸作品を中心に分析・検討を続けている。仮名草子の中では、主に近世初頭に出版された『信長記』『太閤記』『甲陽軍鑑』『北条五代記』などにつき、史実や他の資料との比較を行いつつ、そのカムフラージュの様相の検討を行っている。また、出版取締り令発令後しばらくは、戦国末期以後をとりあげた軍記は衰退するが、その時点での軍書の変貌の様相も重要な検討課題である。さらに、元禄期になると、戦国末期の合戦・武将の伝記をとりあげる『石田軍記』『明智軍記』『北条盛衰記』などが出版され始めるが、それらは当科研費によって原本を購入することが出来たので、その調査・検討を進めつつある。 一方、浮世草子についても検討を継統中、その一部に関しては、後述の若干の成果を発表したが、元禄末期以後の浮世草子に関しては、検討すべき資料等は収集済みなので、出来るだけ早く検討を試みたいと思っている。 本年度中の論文としては、「『日本永代蔵』成立論の諸問題(中)」及び「同(下の一)」を発表した。これは当研究課題と直接関わるものではないが、現在もなお決着をみたとはいいがたい『永代蔵』成立論の問題について、研究史をたどりつつ私見を提示しているものである。また小論「仮名と実名と」は、『永代蔵』でのカムフラージュの具体例若干を示して問題を提起した。さらに、「『武家義理物語』論序説」は、当時の武家に対する西鶴の見方を考えることが、従来の「義理」の見方や『武家義理物語』を見直す上で有効であることを論じた。 単行本『好色一代女の面白さ・可笑しさ』は、一部でカムフラージュによる風刺のあり方を作品の読みに生かしつつ論じている。また『経済小説の原点日本永代蔵』でも、そのカムフラージュの問題を一つの視点として生かしつつ論じた。
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