本年度(14年度)は、予定どおり、資料の調査・収集が中心となった。実現した調査・収集は以下のとおりである。 (1)広津柳浪の「黒蜥蜴」「亀さん」など、いわゆる「観念小説」「悲惨小説」とよばれる作品群の初出と単行本収録版との異同の調査。 (2)それらの作品にたいする同時代評の調査・収集。 以上の二点についてはほぼ終えることができた。単行本初版の収集も可能な限りおこなったが、まだ目にすることのできないものもいくつかあり、来年度の課題のひとつになる。 (3)広津柳浪の作品の舞台となる下層社会における「暗黒」表象の研究。同時代のさまざまな探訪記とくに松原岩五郎「最暗黒之東京」における「暗黒」表象の検討。ルポルタージュ誕生の意義。二葉亭四迷と松原とのかかわり。「暗黒」と「身体」との関係-などについては、本年度は下層社会論他の基本的な資料・文献の収集に努めた。山田俊治『大衆新聞がつくる明治の<日本>』の書評をつうじて、新聞というメディアの特性と「暗黒・悲惨」表象とのかかわりについて考えるきっかけを得た。 (4)広津柳浪の作品の個別研究については、「黒蜥蜴」論に着手した。 (5)欧米の文献を含め、「怪物」論、「フリークス」論などの資料収集については、本年度はさほど進展をみなかった。「幻想文学」(2003年3月)に「怪物/怪獣」を執筆。怪物論の意義について書いた。 以上三点については、来年度も継続課題になった。
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