本年度(15年度)は、予定どおり、資料と文献の調査および収集が中心になった。実現したものは、以下のとおりである。 (1)昨年度の作業の継続では、とくに広津柳浪の作品「雨」「今戸心中」などの初出と単行本収録版との移動の調査をおこなった。また、同時代評の調査と収集もおこなった。これで、当初対象にしていた広津柳浪の作品の半分程度をおさえたことになる。単行本の収集は、古本屋などにも流通がなく困難を極めているが、この点に関しては次年度の課題になる。 (2)広津柳浪と同時代の作家、とりわけ泉鏡花について、「怪物」「悲惨」などの視点から調査をした。次年度は、川上眉山の調査の予定である。 (3)近代の「貧困」「怪物」「悲惨」に、現代のわたしたちがどのようにむきあうべきか。本研究の現在的モチベーションを明確化すべく、以前から取り租んでいる「1990年代におけるホラー・ジャパネスク研究」をすすめた。その成果は、インタビュー「失われた十年を嘲笑う--沖縄文学とホラー小説と時代小説の豊穣をめぐって」(図書新聞2633号)、「方言小説-岩井志麻子『ほっけえ、きょうてえ』をめぐって」(国文学第48巻12号)などとなった。 (4)近代の「貧困」にふかくかかわりながら小説を書いた山本周五郎についてまとめた。「周五郎流』(NHK生活人新書2003年11月刊)である。
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