本年度(16年度)は、予定では先の二年間の調査をふまえての論文執筆を予定していたが、調査がまだ完了せず、やはり資料と文献の調査および収集が中心になった。書き下ろしにむけての収録論文執筆の構想のほか、実現したものは以下のとおりである。 (1)広津柳浪の単行本の収集に力を注いだ。単行本の入手は、この三年間いろいろと手を尽くしたが、ほぼ不可能であることがわかり、各大学図書館などの蔵書のコピーによる収集にかえることにした。その結果、本年度までに17冊のコピーが整った。 (2)広津柳浪と同時代に活躍した作家川上眉山について、作家論・作品論の収集に努めた。 (3)やはり今年度も、近代の「貧困」「怪物」「悲惨」に、現代のわたしたちがどのようにむきあうべきか--という本研究の現在的モチベーションの明確化にもっとも力を注いだ。「戦争」とエロ・グロ(現在ではホラー)のかかわりをテーマにした講演「帝国はその内部から崩れ落ちよ--この10年のホラー小説と戦争」(日本社会文学会2004年度春季大会2004年6月12日 於日本女子大学)、その要旨の活字化「帝国はその内部から崩れ落ちよ」(図書新聞2689号)がある。また、「怪物」の近代を概観した講演「怪物のポリテイックス--文化・メディア・政治」(2004年11月12日 筑紫女学園大学国際文化研究所主宰 於福岡エルガーラホール)、その活字化「怪物のポリティクス」(国際文化研究所紀要2005年5月刊予定)も本研究の成果である。 (4)佐高信との対談『藤沢周平と山本周五郎-時代小説大論議』(毎日新聞社2004年12月刊)では、近代の大衆文学の起源を考察し、広津柳浪らにも言及した。
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