『新古今集』撰者藤原雅経を家祖として蹴鞠・和歌両道を業として近世まで連綿として続く堂上羽林家飛鳥井家歴代の中で、鎌倉中後期に活躍した関東祗候の廷臣雅有は多様な業績を残し、系譜上にも同時代中にも注目される。雅有の業績の全体像を明らかにすることは、文学・文化史上に大きな意義がある。その基礎研究として、雅有の総集として『雅有全集』を作成することを目指した。 まず、雅有と飛鳥井家に関する研究文献目録および雅有年譜の作成に向けて、データをカード等に著録し、最終的に電算処理して原稿化に備えた。一部当該文献は複写により収集・整理した。以上の過程で、雅有母は北条実時女説との謬説が未だ一般的であることを確認したが、これは些事ながらも、断固として修正されるべき事柄である。また、雅有や歴代に直接間接に関わる資料を調査して書誌を著録し、一部を複写・臨写等により収集・保存した。なお、一部伝本については直接購入・保管し、『亜槐集』(雅親家集)や『三十番歌合』(雅親判詞執筆)の善本を入手し得た。 以上に併行して、雅有自身の諸業績の諸伝本を調査した結果、現時点で、雅有全集各書の底本として、以下の諸本を用いるべきであるとの結論に至った。その過程で、東海大桃園文庫本『隣女和歌集』が、最善本だが首巻を欠く歴博本『隣女和歌集』を補完すべき、貴重な伝本であることを明らかにし得たことは、非常に大きな成果である。 (1)隣女和歌集巻一 東海大学付属図書館桃園文庫蔵『隣女和歌集』(桃-30-32) 巻二〜四 国立歴史民俗博物館蔵『隣女和歌集』(H-600-1189/マ-20) (2)別本隣女和歌集 天理図書館蔵本(911・24-イ61/A922)天理図書館善本叢書所収 (3)家集外歌 新編国歌大観所収各本 (4)飛鳥井雅有日記 天理図書館蔵本『飛鳥井雅有卿記事』(914・4-イ1) (5)春のみやまぢ 平野神社蔵本(難波家旧蔵本安永九年藤原宗城筆本) (6)内外三時抄 書陵部蔵伝飛鳥井雅親写本(163-850)、同鷹司本(350-375) (7)弘安源氏論義 寛文元年刊本(架蔵) 今後は、なるべく早期に、全書本文の翻印による雅有全集の刊行を目指したい。その際、索引に加えて、雅有年譜と参考文献一覧を付載したいと考えている。
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