金沢市立図書館・国立公文書館内閣文庫を中心に手元の資料も含めて、菅原道真の漢詩文集である『菅家文草』『菅家後集』の写本・版本類を閲覧し、デジカメによる撮影および本文の調査・研究をおこない、諸伝本研究を開始した。とりわけ研究の基盤となる本文整備・校訂に力をそそぎ、校訂本文を作る作業を研究が遅れている『菅家後集』から始め、『菅家文草』の漢詩部分の校訂を始めた。これらの基礎作業に立脚して今年度は、『菅家文草』の中の渤海使との交流で生まれた漢詩文とその交流の内実の考察を「菅原道真と渤海使の交流」として発表した。道真が官吏として出発する原点がこの渤海使接待の役であり、そのことを道真もたいへん誇りに思い、漢詩文の創作意欲も一層増したこと、また、渤海使裴樓との交流が仕事を超えた心の通い合いであり、そのことがまた、これ以後の道真の政界での活躍の原動力となっていることなど、渤海使との交流が果たした役割の考察をした。さらに、現代の人たちが容易に菅原道真の漢詩文に親しめるようにということで始めた、『菅家後集』の漢詩に適切な訓読文・現代語訳・解説等を添えた注釈を付ける発表も、一昨年・昨年に引き続いておこなった(「菅家後集」注解稿<三>)。今年度の発表部分は長い一つの詩(詠_二楽天北窓三友_一詩。全56句)で、『白氏文集』との関連も深く、注釈作業はたいへんではあったが、個々の語釈や典拠詩文の調査、漢詩の構成・主題の考察などに新見を提示できたかと思う。その他、『本朝句題儷句』で道真関連の作品の出典を調べるのにも、大いにこの本文研究が役にたった。
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