平成16年度は、(1)頼光物の調査、分析、(2)武者絵本の資料収集、(3)これまでの資料の整理を計画し、(2)(3)については平成14〜16年度の収集資料についてデータベース化の基礎固めを進めた。(1)については2作品を中心にして2論文で報告をした。以下、主に(1)によって得られた成果を示す。 江戸時代中期から明治初期に刊行された子どもの読み物は上方絵本、草双紙、豆本などの絵草紙「江戸期子ども絵本」である。他の文芸や文化や社会事情の影響を受けつつ出版された商品であるために享受者を意識した工夫が施され、大人と子どもが共に享受した絵本であることが注目される。その中で英雄譚は、江戸期だけでなく明治から戦前までは子どもの読み物の重要な分野で、多くの作品が見られる。 中でもよく登場する人物の一人が源頼光である。頼光の絵本は、「頼光一代記」、「四天王」、「大江山」、「酒呑童子」などのキーワードを含んだ題名の作品が多く、『前太平記』の頼光とその四天王の逸話を連ねている。だが、戦後はほとんど取り上げられず、源義経や豊臣秀吉が歴史上の人物として様々な作品の中で生き続けているのに対し、忘れ去られた英雄である。 頼光の英雄譚を綴った「頼光一代記」は江戸中期から明治初期に多くの絵草紙に見られる。内容は絵文共に類型化した逸話を組み合わせたもので、人物造形に違いはないように思われる。だが、例えば『〔頼光〕』(北尾政美画)は、黒本『頼光一代記』と筋展開も絵柄も類似しているものの、視点を引いて遠景を細部まで細かく描く絵柄を多用することで、頼光一行の大江山酒呑童子退治の厳しさを写実的に読者に伝えている。また、黄表紙『頼光一代記』は他にはあまり多くは見られない逸話を時間の経過を追って示すことによって頼光や源氏の歴史を読み手に感じさせる。これらの特色には作り手の意図が見出され、頼光を取り上げた時代でも人物造形に価値観の違いがあることを推測できる。
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