1)『諸山縁起』の原本調査 宮内庁書陵部蔵の鎌倉前期写本(慶政手沢本)を閲覧・調査した結果、(1)現在本はある時点で二分された状態にあった可能性が高く(虫損の具合等から)、前半の末尾に当たる部分に1丁落丁があること(丁合の丁付から)、(2)「葛木縁起」(初丁表のみ一面、慶政自筆)「太峯縁起」「一代峯縁起」の順に書写され、「太峯」「葛木」「一代峯」の順に製本され、慶政自筆の表紙・目録題・奥書等が加えられたと推定されること、(3)他の慶政書写あるいは手沢の縁起が多く巻子本であるに対して、本書は大型冊子本(袋綴)で、清書本と推定されること、等が判明した。 2)『諸山縁起』本文校訂 原本を以て『図書寮叢刊 諸寺縁起集』所収の翻刻本文を訂するとともに、翻刻に採用されなかった句点・連読点等の情報を確認した。加えて「太峯縁起」中の熊野関連記事については、関連する仁和寺本『熊野縁起』、落合本『南都寺并熊野』、『両峯問答秘抄』等の本文を以て『諸山縁起』本文を校訂した。 3)関連資料の博捜と整理、位置づけ (1)「大峯縁起」と呼ばれた縁起群の史的展開(院政期から江戸期に至る)をたどるなかで、『諸山縁起』所収の関連記事を位置づけた。→第11項 (2)能「谷行」が葛木峯の縁起に拠り作能されていることを解明した。→第11項 (3)仮託書「熊野山検校頼厳夢想記」の価値を再発見し、これが中世日本の四至観念形成の問題を考える上で重要な資料となることを述べた。→第11項
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