本研究では、顕微レンズを用いた測定装置により版本・錦絵・古文書(アーカイブズ)の紙質測定の技術に関する基礎的研究を行う。加えて、紙への影響を最小限にとどめた調査により、紙の特質を把握し、それらの結果を用いて紙資料群の類別を行う。 平成14年、海外の研究状況について、アーカイブズにおけるコンサバターによる詳細で豊富な紙資料分析の成果に基ずく類別事例の蓄積があるアメリカ・カナダにおける紙質分析の研究状況を調査した。その成果により、紙質分析データの効率的な解析を実行し、研究の質をより向上させた。史料への影響を最小限にとどめた調査により、紙の特質をどこまで把握できるか、紙質画像を入力して比較研究するための準備作業を行った。本年度は、『手漉和紙』を標本として、次の科学的調査と調査技術の検討を行った。 1.顕微レンズを用いた測定装置としてCCD顕微鏡(ピコスコープマン:モリテックス(株))を購入し、コンピュータ入力画像で90万画素による鮮明な拡大映像をデータ集積することが可能となった。分析対象紙面にそのレンズを近接させてモニター画面に写しだし、繊維の長さや交差状態を観察の上、画面をデータとして集積した。それらを個別名称の紙質ごとの「繊維表面サンプル」とした。 2.化学パルプと機械パルプの混入を識別するため、フロログレシン(JIS P8120による)による呈色反応分析の研究を進めた。 3.標本より採取した試料をもとにC染色法(JIS P8120)による紙の繊維試験を行った。 わら・亜麻・楮・三椏・雁皮などの紙原料の呈色状況により識別した。 4.地色の違いを視覚的に判断するのを数値に置き換えるため、各社色差計の性能を調査し、特に白色度・黄色度を測定に対して性能の高い機器の評価を行った。 5.紙の水分量を紙水分計(京浜ケット製)を使い測定し、紙表面の導電性に関する水分量のデータ調査を行った。 6.pHメータにより紙の酸性度を測定すため、pHメータの性能を調査した。 7.紙の製造年月のあるものは、経年数を計算しながらデータを採取した。 以上の科学的調査を行うと共にその他にも標本数種を用いて、個別名称の紙質ごとに1〜7の一連の調査を行い、これらのデータを全てコンピュータで画像処理し、解析データを蓄積した。 今後は、これらの測定結果から紙質の特定パターンを整理し、「紙質類別基準試案」を作成する。
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