本研究の目的は、文学テクストがマイノリティとしての旗人をどのように描いてきたかをあとづけ、旗人像の背景にある社会状況や民族思想について、明らかにしていくことであった。 本研究は具体的には以下のように進められた。 1.ジャーナリストであり、作家でもある旗人・穆儒丐を中心にした。穆儒丐は1918年から1944年までの26年間という長期間にわたって、『盛京時報』紙に創作小説、翻訳、評論、散文など膨大な著作を残している。その著作には清末民初の旗人の生活、文化、思想などを描いたものが多く含まれている。穆儒丐の著作は清末民初の旗人の生活や文化をめぐるさまざまな研究のために、有益な資料となりうると考え、これらを整理し、著作目録を作成した。この成果は研究成果報告集に収めた。 2.穆儒丐のさまざまな作品の分析をとおして、清末民初の旗人像の一側面をあきらかにしようとつとめた。そのさい、他の作家が描き出す旗人像と比較検討をおこなった。とくに、旗人出身の作家が描く旗人像と、一般的な旗人のイメージのあいだにある差異、そしてそれが生まれた背景に注目し、これについても考察した。この結果は、論文「穆儒丐小伝-ある正藍旗人の肖像」、「萌芽期における北京の芸能ジャーナリズム-穆儒丐『社会小説梅蘭芳』を手がかりとして-」として研究成果報告集に収めた。 3.文化面での旗人の役割をより明らかにするために、彼らがとくに関心を持っていた京劇について、旗人たちが観客としてどのようにかかわっていたのかについて考察し、論文「清末民初の劇場空間-徐凌霄『古城返照記』を中心として」として発表した。
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