第一段階の研究課題のうち、指示詞に関する調査研究は研究分担者王亜新が担当し、接続詞に関する調査研究は大滝が担当した。本報告では双方に共通の成果についてのみ記述する。 1:言語資料の作成と利用方法については、次のような確定をみた。 (1)北京日本学研究センターと(株)日立製作所中央研究所の共同開発による『中日対訳コーパス』試用ソフト。文学作品:中国23篇、日本22篇とその訳本を合わせて105件(ほぼ1300万字)。文学以外:中国8篇、日本8篇、日中共同1篇とその訳本合計32件(ほぼ296万字)。王亜新が、試用版モニターとして登録している。 (2)大滝研究室で業者委託して共同開発したGPS検索ソフト。現在データーべース内に蓄積されている文学作品は、中国語原作53作品ほぼ253万字と、日本語原作146作品とその訳本を合わせて、ほぼ115万字。随時、スキャナ入力やインターネットからダウンロードした文字データーを、検索可能なライブラリーとして追加していける利点がある。 2:第一次インフォーマント調査が完了した時点で、当初の計画と異なる点は、(1)日本語の分句末の接続助詞を今回の調査から除いたこと、(2)インフォーマントとして依頼する人数を中国人インフォーマント7名と日本人インフォーマント6名に減らしたことである。調査対象とする語彙を自立語の接続詞に限った理由は、対訳を比較対照の材料として文脈の産出のあり方を考察する場合、ゼロ翻訳(翻訳形式なし)が散見することと、付属語の用法には筆者の個人言語の特徴が特によく顕現し、従って極めて大量の調査資料を収集しなければ一般化しうる用法の傾向が見出せないことが確認できたためである。インフォーマントの人数を減らしたのは謝金不足に拠る。 3:大滝、王ともに現在第二段階の研究課題に取り組んでいる。すなわち内省報告の個人差を弁別し、例文の語義的・文脈的特徴を抽出し、一般理論(接続・指示)のなかから今回の言語資料を解析するにふさわしいテキスト分析の観点と方策を模索しつつ、その考察結果を検証するための第二次インフォーマント調査資料を作成中である。
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