本研究は「一文の単位を超えた接続関係を表現する形式が、人間のどのような思考方法を指示しているのか」という「言語と思惟の相関関係の考察」を目標とする研究計画の端緒を開くものである。今回とりあげた形式と具体的な考察課題は、中国語と日本語の指示詞について「文脈指示における2系列+α(這/那+它)と3系列(コ/ソ/ア)対立の用法と意味の比較対照」および、中国語と日本語の因果関係を表す接続詞について「異なった文階層における呼応の比較対照」である。考察対象とした言語資料のもとは北京日本研究センター開発の中日対訳コーパスと、我々が設計して学生へ開発を委託したデーターベース構築用ソフトによって作成したコーパスである。論考をすすめるにあたっては、出所が明らかで検証可能な第一次資料を作成することに意を用いた。すなわち、これら2種類のコーパスに検索をかけた用例に対して、さらにインーマントチェックをかけたうえで面談により個人的な文脈理解のありかたを調査した。報告書に記録した見解のうち、次の数点は特記してよいと思われる。 [第一部] 「文脈指示」における日本語指示詞と中国語指示詞の相違(王亜新) (1)文脈承前の用法について、中国語の2系列はモノを表す"它"(これ・それと対応)と指示領域を何らかの形で分担しあっていること、および、中国語の2系列では"那"が「いまと切り離された別次元のモノ」を表現するという解釈を提示した。(2)時空間に関する意識について、両国語ともに現場指示の用法での意識が反映しているが、中国語では特に話者と聞き手の間の領域意識が特に希薄であること、また、日本語では未来に関してソ系が用いられるのは、未来時制では時間を特定してのべる必要があり、その結果ソ系の文脈承前用法と類似してくるため、という見解を示した。 [第二部]「接続詞の意味分析の方法と記述方法-因果関係接続への適用例」(大瀧幸子) (1)フレーズ内の単語と単語の呼応を表記するための文法的特徴、と単文中での展叙の職能、および連文における連文職能との分析に用いるための概念とのあいだに共通して採用できる意味的特徴とはなにかについて、文単位での階層意味論での概念が有用である、という解釈を示した。(2)自然言語の相互比較にあたり、認織の対象としての外的存在(現象枠)をたてて、「ほぼ等価値の情報」とはなにかを考察する必要がある、という見解を示した。 [第三部]検索ソフト「GPSV1」の解説(大瀧幸子) 現在も改訂版の設計を続けている。ソフト作成は金沢大学4年林智に依頼した。
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