本研究は、日本詩経解釈学史の基礎的な調査として、中国における古注新注をふまえた総合的な詩経研究が展開されたと思われる江戸時代に注目し、まず邦人による詩経関係の著述を総合的に整理分類した(1)「江戸期における詩経関係書目」を作成し、その詩経研究のありようを鳥瞰する。さらに同時に中国での詩経関係文献の日本における翻刻の調査を併せ行い、(2)「江戸期における詩経関係和刻本目録」を作成することを主な目的に推進した。実地調査に先立ち、刊行されている蔵書目録等で事前調査を行い、その概観を見るために暫定目録を作成。ついで暫定目録をもとに、整理と分類、複写した文献の分析などを行い、両目録の現時点における完成版を作成した。(1)の邦人の詩経関係の著作だけでも470点を超え、量的にも質的にも予想を遙かに上回る研究が行われていたことがわかった。また(2)の和刻本目録の作成により、(1)の目録とあわせて当時の詩経研究や儒教研究の様相を知る大きな手がかりができたものと思う。これで江戸期における詩経研究の基礎的なデータベースは完成し、江戸期の詩経解釈学史構築の基礎データは揃った。また目録作成中に重要と思われる文献を抽出し、そのうち岡井赤城『詩疑』、増島蘭園『詩序質朱』、斎藤芝山『復古毛詩序録』について考察を加え、本研究の次に実施する本格的各論研究のベースとした。このうち、斎藤芝山を見ただけでも、新注の勢力が大きくなる学的風潮の中に明学の影響が色濃く見られる学者の集団があったことなど、江戸期における儒教研究の一端を明らかにすることができた。また台湾で開催された日本漢学国際学術研討会に招聘され、今回作成した目録の成果と大田錦城の詩経学について報告した。今回作成したデータベースは近い将来ホームページなどでの公開を予定している。
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