中国の文学において、「友情」は重要なテーマの一つである。恋愛文学が他の国の文学に比して乏しいことと表裏をなすかのように、「友情」は質量ともに中国古典文学の中心を成す。 友情に関する言辞も多くが遺されているが、そこには片言隻句でありながらも、深い知恵を含んでいる。また友情を語る物語も多い。管鮑の交わりはそのなかでもとりわけよく知られた話であり、もちろんそれは戦国時代に実在した人物管仲と鮑叔の事実に基づいているのだが、先秦の文献から再構築してみると、二人の間には本来利害関係しか存在しなかったのが、『史記』がそれを友情物語に作り直していることがわかった。見方を代えれば漢代になって人々は友情を求めたとも言える。 後漢の范式と張邵の故事は長い時代を経て伝えられていき、またその間に変化していく故事の典型的な例である。『後漢書』では范式という一人の人物を中心として彼に関わる友情のいくつかが記録されていたのだが、そのなかの張邵との関わりを語る故事だけがふくらみながら発展していく。物語の結構は元曲までそのまま続くが、話本に至ると、両者の役割が入れ替わり、約束を守るために自分の命を絶つという激しい信義の問題になる。さらに日本にわたると、上田秋成はストーリーに自然らしさをもたらす一方、より複雑にもしている。 以上の物語化された友情とは別に、実際の文人の間の交遊も文学の重要なテーマであった。建安文人たちの交遊、李白と杜甫の関係、元〓と白居易の一生を変わらない友情、蘇軾蘇轍兄弟の愛情など、好個のテーマが数多くあるが、それについてはさらに研究を継続させていきたい。
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