研究概要 |
二重メカニズムモデルでは、サセ使役には演算処理、語彙使役にはネットワーク的な記憶が関与していると考えられる(Sugioka et al. 2001)。この仮説を検証するために使役構文の脳内基盤を探るべく,128チャンネル脳波装置(Neuroscan)を用いて事象関連電位実験を行った。 語幹を共有する語彙使役とサセ使役のペア(並べる、並ばせる)を用いて、語彙使役文では正文(料理を並べる)と意味選択の逸脱文(くしゃみを並べる)、サセ使役では正文(選手を並ばせる)とサセの選択制限違反の逸脱文(料理を並ばせる)とを刺激文とし、それぞれ正文と逸脱文との波形を比較した。 被験者総勢28名について実験を行った。アーチファクト除去などのデータ処理を行った後,分析の解の対象となったのは14名(女性8名)。結果としては,語彙使役文では逸脱文における文末の動詞で意味的な処理を反映するN400成分が出現した。一方サセ使役文の処理では,波形にみられる個人差が大きかった。そこで,個人波形の視察を行った結果,おおまかに2つのグループに分類できることが分かった。逸脱動詞で左前頭部に出現する陰性波LANが認められるグループ7名と,顕著なERP成分は認められないグループ7名である。被験者の一部とはいえサセ使役文でLANが出現したことより,当該構文の処理には演算的側面が関わっていることが生理学的に明らかになった。サセ使役文の処理で観察された個人差については,今後検討の余地がある。LANについては,その信頼度を高めるため,GFP, paired-t, SCDなどの新しい解析法を用いて時空間分析を行い,詳細に検討している。
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