研究概要 |
二重メカニズムモデルでは、サセ使役には演算処理、語彙使役にはネットワーク的な記憶が関与していると考えられる(Sugioka et al.2001)。この仮説を検証するために使役構文の脳内基盤を探るべく,昨年度から128チャンネル脳波装置(Neuroscan)を用いて事象関連電位実験を行っているが,今年度はその結果の解析を中心に研究を進めた。 語幹を共有する語彙使役とサセ使役のペア(並べる、並ばせる)を用いて、語彙使役文では正文(料理を並べる)と意味選択の逸脱文(くしやみを並べる)、サセ使役では正文(選手を並ばせる)とサセの選択制限違反の逸脱文(料理を並ばせる)とを刺激文とし、それぞれ正文と逸脱文との波形を比較した。さらに,語彙使役正文とサセ使役正文との波形の比較も行った。 被験者17名(女性8名)の実験結果の解析を行った。語彙使役文では逸脱文における文末の動詞で意味的な処理を反映するN400成分が出現した。一方サセ使役文では,早い潜時帯(250-300ms)で左半球前頭部陰性波LANが,その後300ms以降左右差のない前頭部陰性波ANが観察された。この結果は,サセ使役の処理に演算的側面が関わっていることを示唆する。サセ使役逸脱文の処理では,予測に反して正文との比較におけるP600が観察されなかったが,これはサセ使役文では正文であっても陽性電位の増大が見られたためであると考えられる。この点を明らかにするために,サセ使役と語彙使役の正文同士の比較を行ったところ,サセ使役にP600が出現していることが判明した。これは,サセ使役文の埋め込み統語構造処理に関わる負荷を反映するものと解釈できる。 本研究の成果は,2004年11月に日本言語学会第129回大会において発表した。
|