本年度は研究の2年目に当たる年だったが、一年目の研究成果として、漱石作品の解読を通して、日本の近代化過程における欧米のリスペクタビリティの洗礼と、それに伴うエロスの変容について明らかにした論考を発表することができた(『文学』2004年1・2月号)。この研究成果は、早くも多方面から反響を呼び、日本近代文学および英文学、思想史の学会に波紋を投げかけることができた。 また、変質論の思想史的系譜からアングロ・インディアンや植民地主義のメンタリティおよび、世紀末の性にまつわる文化史をも読み込んだライヤード・キプリングについての論考も、図書として刊行され、これも多方面で書評などにも取り上げられ、好評を博している。 さらに、ここ数年来の課題であった、変質論の思想史的系譜をようやくまとめあげて、論文として刊行することができた。これにより、人種論の系譜から発展してきた変質論が、植民地の異人種の表象を利用しつつ精神医学にとりこまれ、ヨーロッパ内部に新たな異人種を創出していった過程が初めて明らかになった。この論考は、変質論の生成過程について行われた、これまでにない多角的な角度からの分析と総合である。 また、11月には日本ワイルド協会において研究発表を行い、ワイルドの同性愛美学がウォルター・ペイターの音楽論とギリシャ倫理に影響を受けていること、ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』において、音楽が同性愛表象の鍵をとく、非常に重要な役割を担っていること、それが「肖像」という絵画の反転的意味を帯びていることを明らかにしてきた。この発表も大変好評を博している。次年度は、ペイターからワイルドへの同性愛表象の可能性の展開について論文にまとめると、この研究の骨格部分が整うことになる。
|