研究概要 |
昨年度は主にパンジャブ系移民が主導権を持って広げていったバングラ音楽と文学の関係について研究したが、今年度はその他のインド系移民作家の作中に現れる音楽について研究した。一昨年度の歌詞中心、昨年度のリズム中心の精読から一歩すすめ、今年度は主題としての音楽を取り上げた。その過程で、Asian Dub FoundationやFun>Da>Mentalなど、イギリスで活躍するインド系ラップバンドを中心に、「怒れる移民2,3世」の政治的メッセージと、文学テキストの政治的メッセージの表現方法について比較した。ダンス・ミュージックの形をとるアジア系バンドの音楽は、その挑発的メッセージとはうらはらに白人ユースを取り込む明るく乗りやすいサウンドになっている。それは、ミドルクラスが読者である文学テキストの持つ言葉の魅力に近い。ただ、コミュニティーに根ざした音楽バンドのメッセージに比べて、若者が主題のクレイシの文学テキストでさえ意識的には中流階級(ミドルクラス)でありながら差別の対象となっている自分の外見や存在と距離を置こうとする作家のスタンスが見え隠れしており、メッセージは直接的でないことがわかった。 今年度は昨年度に引き続き、移民の子供たちのコミュニティー音楽活動について、エジンバラ市を中心に調査した。コミュニティー音楽活動は、Asian Dub Foundation等のバンドを輩出しており、英国の移民文化にとって特に大切であるといえる。そこでは、自分たちの文化に根ざした音楽を伝えようという動きと、それを現在のイギリスにいる自分たちの音表現に変えていこうとする綱引きが常に存在していることが確認された。
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