研究概要 |
平成15年度には、「抽象」の観点に基づくクレイン作品の分析作業を継続した。具体的には、クレインの詩作品(『橋』をのぞく)の日本語への翻訳作業、およびThomas E..Yingling, Hart Crane and the Homosexual Text、Paul Mariani、The Broken Tower、Clive Fisher Hart Crane : A Life等の研究の批判的読解を通じて、クレインの詩作品に見出される言語の抽象性と、同性愛、飲酒、宗教その他のテーマとの関連性を明らかにする作業を行った。また11月に開催された日本エズラ・パウンド協会大会に出席し、これらの作業の結果についてモダニズム文学研究者と意見交換をした。 分析の結果、クレインの詩作における抽象の性格について、次のことが明らかになった。(1)パウンド型の「構成主義」的抽象に加え、「再現性消失」の意味での抽象化が戦略的に試みられていること。(2)その抽象化は超越性獲得のための手段、あるいは、超越性希求の試みの結果であると考えられること。(3)作品中に描かれる同性愛およびそれに伴う身体的苦痛は超越性獲得のための儀式であり、言語における抽象化の試みはその儀式と連動していること。 以上の研究結果をもとに、研究成果報告書を作成した。
|