研究概要 |
昨年度のオーストラリアとシンガポールに引き続いて、今年度は二重目的語構文から派生される間接受動文と直接受動文の容認度についてカナダと米国で調査を行った。同じ二重目的語を取る動詞でも、物や情報が着点まで移動したことを意味するbring, pass, e-mail, writeなどの間接受動文は容認されない、というのが常識であったが、これまでの調査からすると、それも常識ではなくなりつつある。この4ヶ国いずれでも、アンケート対象者の半分がその間接受動文を容認可能と判断している。やはり間接受動文が不可能とされてきたpromise, permit, advance, guarantee,deliverなどでも同様の傾向が見られ、間接受動文を容認する英語母語話者の割合が確実に増加している。逆に、直接受動文を容認する話者は驚くほど減少しており、直接受動文を許す典型的な動詞とされてきたgiveの場合ですらも、これを容認可能とした対象者はどの国でもゼロか1名である。これは世界的な傾向と考えられ、言語変化の面でも一般言語理論の面でも大きな意味をもっている。特にシンガポール英語のように、発音や語法が他の英語とはかなり異なる英語でも同じ傾向が強く出ている点が重要である。このように地域的に異なる英語でも同様の傾向が見られるのは、二重目的語構文の特殊事情なのか、それとも英語一般に見られる事実であるのか見ておく必要があり、英語の所有格表現と数の一致に関するアンケートも今年度は同時平行的に実施してきた。この点については、まだ中間的な結論を出すまでも至っていないが、来年度はこの点も確認できるような調査を進めていく予定である。
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