始めに報告すべき点は、研究代表者広瀬が脳基底部の疾患により視力障害を患い平成13年12月から14年3月末日まで入院を余儀なくされ、職務復帰後も視力は充全に回復せず、研究の進展が大きく損なわれたということである。しかし、徐々に回復を待ち、研究課題の基礎部分に着手することから始めた。今年度の課題は、ユダヤ人に関する中世演劇の旧綴りテクストを現代綴りテクストに変換することであったが、目を酷使する作業であるため、それは実現せず、旧綴りのテクストを整備するにとどまった。現代綴りへの変換は来年度に実現する予定である。また、研究課題実現の一環として必要である中世演劇とルネサンス演劇の関係をいかに考察するかという問題に関しては、欧米の最新の研究および私が蓄積してきた情報と知見をもとに、「英国中世演劇研究の展望」という表題のもとに論文を発表することができた。この論文は、日本を代表するルネサンス演劇研究者に既に送付し好意的な感想をいただくことができた。来年度の課題は、上でも述べた現代綴り化の作業の実現に向けてねばり強く作業を続けることである。また、研究課題のもう一つの柱である、中性カソリック信仰のヴィジュアルな側面を伝える宗教美術および生活工芸品のなかで、宗教改革を経て変容した様々な意匠に関して写真などのデータをそろえることがきわめて重要であると考えているが、この点に関しては、英国の研究者と既に連絡を取っており、協力はしてもらえると確信している。ただ、データベースの構築に関しては長期にわたるフィールドワークが必要であり、現時点では非常に難しく、仮に実現可能であるにしても研究課題の範囲に絞らざるを得ないという感触を得ている。
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