メタ言語否定という現象は、全ての自然言語に見られ、人が持つメタ表示能力の一つの現れであると見なすことができる。そしてこの現象は、書き言葉というよりは日常のコミュニケーションにおいて典型的に生じるものである。その否定対象は、含意や前提、形態、発音、レジスターなどをはじめ、先行発話のあらゆる側面に及ぶとHornは主張するが、様態の含意などはその対象になれない。一方Carston(1996)は、メタ言語否定に共通する唯一の特性は非明示的エコー特性であると分析するが、この分析は、否定辞とその作用域にある表現のレベルが異なることを述べているに過ぎず、エコーの元になるものの何が否定されているのかについては何も述べていない。メタ言語否定がコミュニケーション特有のものであることから、認知語用理論である関連性理論の枠組みを用いて、メタ言語否定の対象のほとんどが、「express(正確に言うとnecessarily accompany)されているがcommunicateされていないもの」という規定でカバーできることを明らかにした。この特徴づけに当てはまらないいわゆる「一般的会話の含意」は、現実のコミュニケーションでは、表意と見なされることも推意と見なされることもありうる。つまりその発話の使用状況によって、真理条件に貢献する場合もしない場合もあるということになる。このことは、当初のHorn(1985)のメタ言語否定の定義「真理条件的内容を否定するのではなく『先行発話の断定可能性』を否定する否定辞の用法」が自然類をなさない可能性を示唆し、いったいメタ言語否定というものが何者であるのかを再考する必要があることを指摘した。
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