テーマのメタ言語否定という言語現象は、全ての自然言語に見られ、コミュニケーションを可能にするメタ表示能力の一つの現われである。本研究の目的は、メタ言語否定が自然類をなすのであれば、何らかの統一的規定が可能であるはずだという仮定に基づき、その否定対象の本質的特徴を明らかにすることである。平成15年度は、前年度から継続している「一般的会話の含意」の認知処理レベルに関する仮説をまとめ、「前提」やQ含意にも適応し、データに基づく仮説検証・修正の過程を経て、メタ概念的否定が発話処理のどのレベルを対象にするものと分析するのが妥当かを明らかにすることを目標にした。「一般的会話の含意(generalized conversational implicature)」とは、発話にある種の表現が用いられるときに、(文脈に関係なく)通例その表現に伴われる含意、としてGrice(1967)によって特徴付けられたものである。調査・研究の過程で、この「一般的会話の含意」という名称でくくられるものが均質ではない可能性を示唆する結果が出た。Neo-Grice的考え方では、真理条件に貢献しないと考えられている「一般的会話の含意」が、明らかに真理条件に貢献すると見なさなければならない場合がある一方、以前からの主張のように、真理条件に貢献せず、その否定がある種の再分析を必要とするような場合もある。Horn(1985)のメタ言語否定の定義は、先行発話の真理条件を否定するものではない否定の用法であるから、これまでの分析の対照範囲の適切さに大きな疑問が生じることになる。それ以外のメタ言語否定の否定対象は、データを発話に限定した場合、necessarily accompanied but not communicated by the attributed utterance、として特徴付けられることを明らかにした。
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