本研究は、1960年代から80年代にかけてのアメリカ社会の変動期に誕生した思春期文学(Adolescent Literature/Young Adult Literature)を取りあげ、そこに描かれた男性性の変化を、同時期のアメリカの社会・文化的文脈において研究するアメリカ文化論である。 1.1982年にヴェトナム戦争記念碑(通称 The Wall)がワシントンに建設されたのを機に、アメリカ国内でヴェトナム戦争体験による「傷」の癒しを求めるムードが高まった。Katherine PatersonのPark's Quest (1988)は、ヴェトナム戦争体験による帝国アメリカの男性性の威信に負った「傷」の癒しをめぐり展開するいわゆる「父・息子」物語である。本研究では、2003年1月1日出版の共著Bridges for the Young : The Fiction of Katherine Patersonにおいて、パターソンのこの作品の中に、少年の視点からのアメリカの「男らしさの神話」の見直しを、社会・文化的文脈において読みとった。 2.ヴェトナム戦争後の1970年代に批判の対象となった「男らしさの神話」の源流を辿り、今なおアメリカ文化において一定の勢力をもつ、肉体的強靭さをもとにした男性像を表した作品、Edgar Rice BurroughsのTarzan of the Apes (1912)を、論文「Tarzan of the Apesにみる男性性の再活性化-<野性>を母とする」において検証した。なお、本論文発表に先立ち、国際学会「第10回日韓美学研究会・第2回東方美学研究会」にて、英文の口頭発表を行い、発表論文がこれら学会の報告書に掲載された。
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