本研究は、1960年代から80年代にかけてのアメリカ社会の変動期に確立した思春期文学(YA文学)に描かれた男性性の変化を、同時期のアメリカの社会・文化的文脈において研究するアメリカ文化論である。 1.Robert Cormierの作品I Am the Cheese (1977)の研究。この作品では、ヴェトナム戦争、ウォーターゲート事件などに代表的なアメリカ国内外での権威の失墜が濃い影を落としている。二つのわき筋(1.自由と民主主義の国家。2.アメリカ例外主義。)をもつ、アメリカの物語の枠組において作品解釈を行った。本作品では、アメリカ神話の本来的な主人公のアメリカン・ヒーローが「死に」、アメリカニズム喧伝の道具となることを拒否し、自らの物語を紡ぐニュー・ヒーローが描出される。平成15年8月に国際児童文学学会(IRSCL)で、"Telling a New Narrative of American Adam and His Manhood in I Am the Cheese"として口頭発表をした。同タイトルの論文は、平成16年3月に日本イギリス児童文学会の学会誌Tinker Bell 49に掲載された。 2.単著『少年たちのアメリカ-思春期文学の帝国と<男>』を平成16年2月に出版。平成7・8年度、10・11年度、平成14・15年度の科研費助成金補助金による研究成果に加筆修正を加えて1冊にまとめたもの。本書での書き下し部分は、まえがき、序論、あとがき。まえがきで思春期小説と男性性の定義を行い、序論でアメリカ近代社会の男性性に生じていや亀裂をトウェイン作品のトムやハックを事例的に取り上げて問題提起をした。あとがきでは、帝国アメリカと思春期小説の関係性を概観した。思春期文学は、アメリカニズムのイデオロギーの教化装置として利用され、作者の立場により、作品が馴化の場や抵抗の場となっていることが明らかとなった。
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