本研究は、思春期文学(ヤングアダルト文学)を取り上げ、作品中の男性性の変化をアメリカの社会・文化的文脈で研究する文化論である。 1.ヴェトナム戦争は、アメリカの物語/アメリ力神話で「兵士」型ヒーローを演じてきた伝統的男性性の崩壊を露呈した。本研究は、戦争禍による「傷」の修復を求める世相を反映して1988年に出版された思春期文学のヴェトナム戦争物語のうち、PatersonのPark's Questを、Bridges for the Youngで取り上げ、戦争による白人男性の威信の失墜と回復の問題を当時の社会・文化的文脈で読み解く。Tinker Bell 49では、ヴェトナム戦争やウォーターゲート事件などによる政府の権威失墜を暗示する、CormierのI Am the Cheeseを分析した。政府の不正により家族を奪われ抹殺の危機に瀕する少年主人公の描写の分析をとおして、男性性と国家とのかかわりを探り、思春期の少年の真摯な自己探求が、アメリカの物語のイデオロギーと葛藤する様を浮き彫りにする。 2.『論集』49-2では、男性性神話に注目しながら、BurroughsのTarzan of the Apesの肉体的強靭さを核とする男性性の表象を検証した。Children's Literature & the Fin de SiecleやThe Presence of the Past in Children's Literatureでは、The Wizard of OzやEarthsea五部作を取り上げ、世紀転換期の男性性の不安や70年〜90年代の男性性神話の崩壊と改訂とを論じた。 3.単著『少年たちのアメリカ』では、思春期文学が制度としてデモクラシー帝国の維持・発展のためにイデオロギー的国家装置の役割を果たすことを、諸テキストの比較・検討によって検証した。反抗文化の申し子、「成長」を拒否するヒーロー像にイデオロギー教化装置への抵抗を読みとった。
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