研究概要 |
本研究の目的は、パーソナル・コンピュータを利用し、G.チョーサーの『カンタベリー物語』(The Canterbury Tales)の84写本のうち最も重要であると考えられるHengwrt(以下、Hg)写本とEllesmere(以下、El)写本のテクスト校合を行うことである。Hg写本は、最も古い写本であり、その分チョーサーのオリジナルに最も近いと考えられている。一方、El写本は、写字生の編集が周到に施され、その分最も完成に近いもので、従来多くの刊本のベースにされてきた。本テクストの校合研究は、いわば対極的な2つの写本の相互補完的な情報を通して、チョーサーの英語の実相をより網羅的・客観的に把握することを可能にしてくれた。 また本研究は、チョーサー及び中英語テクストのデータベース化という国際的研究動向に対応するものである。Hg, El写本のCD版テクストが、The Canterbury Tales Project (Estelle Stubbsの編集)より2000年に出たが、コンコーダンス作成ないし語彙研究は今後の課題として残っていた。比較コンコーダンス作成は、Norman Blake教授(元Sheffield大学)とEstelle Stubbs博士(Sheffield大学)の協力を得て押し進めた。平成14年度のGeneral Prologueのコンコーダンス(Jimura, Nakao, Matsuo, Blake, and Stubbs(2002)を参照)に引き続き、平成15年度はThe Knight's Taleのコンコーダンス及び両写本のワードペア網羅的リストを作成した。2写本のデータを客観的に検出し、言語特徴を記述したことは、チョーサーの言語の研究を大きく発展させることができる。言語資料を公刊して世界の研究者の利用に資する予定である。
|