○主として次の3点において、所期の成果をあげることができた。 (1)前2年間の調査・研究を綜合して、「ロマン派医学」('Romantic Medicine')の実態を解明した。 (2)'Romantic Medicine'のロマン派詩人への影響(作詩/読詩活動や倫理・思想面における)を具体的に検証した。 (3)ロマン派の時代の医療文化を共通基盤にしたWordsworthとKeatsの比較研究を行った。そのことにより、'Romantic Medicine'の両義的性格(可能性と限界)を明らかにし、「ロマン派医学」の所産としてのロマン派詩の現代的意義を問い直した。 ○具体的成果としては二編の論文、(1)"The Structures of Keatsian Ambiguity : A Reading of La Belle Dame sans Merci"、(2)「キーツと大衆・女性・読者」と口頭発表(3)「キーツと大衆・女性・読者」(シンポジウム「イギリス・ロマン派詩人と民衆」)がある。(1)では、前年度発表の2論文「キーツの"my 1819 Temper"をめぐって-Ode on Indolence論(その一)」、「同(その二)」で得られた知見に基づき、キーツの名声欲に特に焦点を当てて、詩人の病的気質・体質がキーツ独自の詩風(アンビギュイティー)を生み出す経緯を明らかにした。(2)と(3)は実質的には同じ内容で、直接「ロマン派医学」とは関係を有しないが、イギリス・ロマン派の時代の流行病と目される「作詩狂」(Metromanie=Metromania)に触れるものである。当時の保守系文芸批評雑誌から「作詩狂」患者と罵られたキーツが、詩人としての自己の信念を曲げずに、詩的名声を獲得すべく苦闘する姿に光を当てた。 上述の論文・発表の他に、研究成果報告書(冊子体)として3年間の研究成果をまとめ上げた。
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