発話解釈および会話の含意の算出のプロセスという観点から、先行研究と関連性理論を分析し、後者により当該の問題を認知的に妥当な形で説明することを研究目的とした。 まず、グライスの協調の原則ではなぜ4つの公理の非遵守と協調の原則の遵守という異なる認識が発話解釈に必要であるのか、またどのように会話の含意が一つに決まるのかが説明されていない。レビンソンも同様の問題をもっており、かつ一般化された会話の含意に3つの異なる推論の仕方(Q推論、M推論、I推論)を提示することで、発話の含意だと直観的に認識するものを超えてはるかに多くの言語現象を含意と分類してしまっている。一方、(特に明示的行為遂行発言に関して)社会規約や社会慣習を発話解釈の動機とするオースチンやサールの伝統的な発話行為論では、特定のコンテクストにおけるさまざまな発話の力が発話の明示的意味にあたるのか非明示的意味にあたるのかが明確ではない。さらに、聞き手の推論過程を発話行為論に組み入れたバックとハーニッシュのスキーマでも、グライスの問題点は解決されていない。最後に、丁寧さという社会文化的な要因を発話解釈に持ち出すLeechの主張では丁寧さが関係のないコンテクストでも含意が生じることを説明できない。 実際に日本語の会話データを分析すると会話の含意を用いたコミュニケーションは限られており、発話の意味分析の第一段階であるさまざまなタイプの表意の復元過程が顕著に見られる。また、種々に分類されている会話の含意の算出の方向性も発話の意味の特定化という共通の特徴をもっており、それは関連性志向の認識に裏付けられていると考えられる。(詳細は拙書『発話と意味解釈』(2004年3月発行)を参照していただきたい。)
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