(1)特に17世紀イギリス文学における国家意識再構築の主題について前年度に引き続いて研究を進めた。内乱時代およびその前後の政治的歴史的資料については、主としてノッティンガム大学、オックスフォード大学ボドリアン図書館、大英図書館等において検索を行った。文学的資料については、特にアンドルー・マーヴェルの諷刺作品の歴史的背景およびジョン・ミルトンの宗教的、政治的パンフレットの検索等を中心に研究を進めた。この結果、17世紀イギリス文学を代表する両者の文学的感覚が17世紀イギリスの国家体制における危機的状況を鋭く意識するものであり、その著作が文学的領域のみならず政治的、宗教的、社会的問題としてイギリス国民に問いかける性質を顕著に持つことを確認した。文学が果たすこの役割が17世紀においてどのように特徴的であるかについてはさらに広く文献に当たり検証する必要がある。20世紀文学における状況については戦争詩および1960〜70年代の詩作品を中心に同様に検証する予定である。この研究成果はパソコンワークで整理し次年度に纏めて発表する。 (2)18世紀および19世紀における標記課題については、前年度に引き続き、ロマン派文学における奴隷問題の主題を中心にさらに研究を進めた。特に1790年代のS.T.コールリッジの著作における道徳的観点と18世紀ヨーロッパに広く勃興した人種理論との相関性について分析した。この成果は第75回日本英文学会(平成15年5月)において「奴隷貿易の道徳的問題とロマン派言説における限界」のタイトルで口頭発表を行った。この内容はさらに『英文学研究』に投稿予定である。資料収集は、BL、ボドリアン図書館、ノッティンガム大学等において行った。また有用な研究助言をティム・フルフォード教授(ノッティンガム・トレント大学)より受けた。次年度はエドマンド・バーク、ジェイムズ・ラムゼイ、レイモンド・ハリスなどの論点をさらに分析しこの状況のより正確な「現実」を明らかにする。最終的にはロマン派文学の政治的、宗教的性質(特に国教会ロジック対非国教徒との関係)をより明確にし、課題のまとめを行いたい。
|