研究課題/領域番号 |
14510530
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
園井 英秀 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (00069709)
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研究分担者 |
園井 千音 琉球大学, 法文学部, 助教授 (70295286)
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キーワード | 国家意識 / アンドルー・マーヴェル / 構築的主題 / British Slave Trade / Race Theories / Romantic Sensibility |
研究概要 |
標記研究課題について、前年度に引き続き、主として17世紀イギリス文学における国家意識の主題、及び同ロマン派文学における民族意識にかかわる主題として奴隷貿易に関する文学的関与について研究を行った。17世紀文学における国家意識は、イギリス内乱時の政治的宗教的ポレミックとして意識される性質を持ち、この主題は、ジョン・ミルトンの散文作品における共和制国家体制に対する擁護と宗教の政治権力化に対する批判として示されるが、その内実はあらゆる意味での人間精神の束縛に対するプロテストである。この姿勢の道徳的性質はイギリス人読者に対する教育として意識されているが特質である。同様の道徳性はアンドルー・マーヴェルの文学においても顕著である。特に、中期抒情詩、クロムウェル三部作あるいは後期の風刺作品(散文も含む)における国家意識再構築の主題は、マーヴェル文学の特色というより、17世紀イギリス文学における人間精神と自由という命題に連携し、文学の社会的役割を含む重要な問題点を示唆するものであることを明らかにした。 また、この課題の今ひとつの大きな柱として、ロマン派文学における奴隷貿易の主題に注目し、文学における公共的主題、文学の社会的役割、国民意識とロマン主義の感受性との接点とバッティングの問題等の側面から広く文献調査を行い、その解釈を試みた。この研究において、ロマン派文学における奴隷貿易の主題は、特にコールリッジおよびワーズワースの文学活動を例に取れば、この主題の公共的性質が、ロマン派詩人の思想的芸術的信念との整合性を示す反面、人種的偏見との関連においてある種の歴史的限界をロマン主義の感受性自体が内包することを指摘した。この問題はさらに広く調査が必要であり、重要なブレイクの場合についてはまだ十分な解釈を得ていない。いずれにせよ、ロマン主義文学における奴隷貿易の主題は、17世紀以降のイギリス文学の公共的性質の問題点を示し、特に読者の国民意識と精神的自由に対する重要な問いかけを行うものである。 以上、標記の課題について研究を進め、その成果を論文として合計5点発表した。この課題は、イギリス文学における道徳性というより大きな課題に発展するために、さらに継続研究が必要である。
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