研究概要 |
これまで申請者(南)は、イギリス初期近代の市における演劇の上演環境、とくにその俳優の移動を中心に資料の収集と研究を重ね、昨年度の成果は主要な勅許劇場であるドルーリー・レイン劇場での俳優を論じた「ドルーリー・レインの三頭政治:18世紀初期ロンドンの劇場をめぐる政治学」として昨年出版社原稿を提出し、出版を待っている状態である。本年度は17世紀後半の演劇の演技に注目し、市と勅許劇場との交流・移動が可能であるということを根拠に資料の残存している勅許劇場で活躍した俳優の演技術・演技観について研究を行った。当時の代表的俳優Thomas Bettertonとの対話という体裁をとりながら、実際にはCharles Gildonによって書かれたとされる17世紀後半の演技論The Life of Thomas Bettertonを鍵テクストとし、Colley Cibberの自伝をはじめ、Booth, Wilksなど同時代の俳優たちの自伝や伝記、さらにDennis, Downes, Hill,など同時代の演劇人・批評家によって書かれた演劇書を渉猟することで演技観の輪郭を明らかにしようとした。この研究成果は第17回スチュアート朝研究会(成蹊大学:2004年9月19日)において「演技は絵画を志向する:17世紀末の演技観を考える」、さらに第43回日本シェイクスピア学界(同志社大学:2004年10月10日)のセミナー3「王政復古期演劇を読む-ジャンルの変容の観点から」(コーディネーター:末廣幹)において「役者が創る王政復古期演劇:再演の詩学」として発表を行なった。劇場空間と演技という両面から行なってきた考察は、最終年度である17年度に、再度fairという祝祭演技空間のコンテクストに置くことにより、市(fair)が初期近代イギリス演劇に及ぼした影響を明らかにできるはずである。
|