研究代表者(南)は、平成14年度より4年間の研究機関に、イギリス初期近代における大衆文化・芸能としての演劇の変化、この大衆文化・芸能としての演劇に大きな影響を与えたものとして、内乱期のパンフレット演劇と演劇上演形態の変化に注目した。そして次の2つのことを中心に研究を進めてきた。 1.イギリス初期近代における演劇的なるものが社会において、どのように認知され、機能してきたかについて、従来英文学研究では研究対象として扱われることのなかった市(fair)など劇場以外の空間における人形劇や見世物などに注目し、一次資料を基にその変容の過程を検討した。 2.王政復古期を中心に、市の芝居小屋を含めたさまざまな演劇の上演形態および上演の実際について俳優の社会的な位置付け、市などで設営された芝居小屋や一時的に設営された上演施設など非勅許劇場とロンドンにおける勅許劇場との関係を、俳優など人的移動の観点から考察しようとしてきた。その際に内乱期のパンフレット劇やドロール劇など、既成の劇場空間以外で上演される演劇との関係を検討するのが必要であるという立場から資料収集を基に研究を行ってきた。 4年間の研究は、その進展にともない、しだいに王政復古期の市などの芝居小屋の演劇という大衆文化・芸能と公の勅許劇場との交流のエージェントとしての俳優へと研究の重心を移し、より広範な視点からパンフレット演劇など大衆演劇文化の転回点としての内乱期を見直そうと努めてきた。その成果の一部は、論文「人形劇の政治学-初期近代イギリスにおける娯楽」(『演劇都市はパンドラの匣を開けるか』所収)から「ドルーリー・レインの三頭政治-18世紀初期ロンドンの劇場をめぐる政治学」(『食卓談義のイギリス文学』所収)として公表したほか、学会・研究会において発表を行ってきた。今後は4年間に収集した資料を基に、イギリス初期近代の大衆演劇文化像の構築を行う。
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