本年度は主に、ロス・アンジェルスのEast West Playersの演劇調査を行った。East West Players は、アジア系アメリカ演劇の上演を目的として設立された米国最初の演劇グループであり、2003年9月からは"Politics of Passion"と題して、年間4作品を連続で上演する。本年度の出張で観劇した作品はJames Lapine原作による一幕ミュージカルPassion(音楽、作詞Stephen Sondheim)であった。本作品はアジア系作家のものではなく、アジア系以外の観客もかなり見られたが、通常はアジア系の観客が大多数であるとのことであった。観客席は100席に満たないほどの小劇場であり、今後劇場の拡張も望みにくい経済状態であり、アジア系演劇を発信できる規模については疑問に思う点があった。また、本年度6月には、全国アメリカ演劇研究者会議第20回大会シンポジウムにおいて、パネラーの一人として研究発表を行った。90年代以降のアメリカ演劇を代表する劇作家Tony KushnerがAngels in Americaにおける劇的メタファーとしてのAIDSの役割を検証しながら、ゲイ文化とアメリカ演劇の関連について考察した。Kushnerはアジア系アメリカ人劇作家ではないが、ゲイ・カルチャーをアメリカ演劇のメインストリームへと押し進めた功績は、アジア系劇作家のDavid Henry Hwangの功績と共通する。7月には、HwangのM.Butterflyにおけるアジア系女性の西洋化ステロタイプに関する見解を論文として発表した。また、2004年4月より『英語青年』誌の「海外新潮」欄において、アメリカ演劇の現在の動向を紹介する連載を開始した。アジア系アメリカ演劇を含む人種的、性的マイノリティの劇作家に焦点をあて、同誌上でこれから研究成果を発表していきたいと考えている。
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