研究概要 |
言語は民族のアイデンティティの基幹に位置すると思われる。アイルランドでは,過去の歴史のなかで,固有の言語であるアイルランド語が抑圧されたことがある。支配者の言語である英語が押し付けられ,教育の場でも,イギリスで使われている教科書,つまり英語ですべて書かれている教科書が用いられていた時代がある。以来,アイルランド人の文学の中には,英語とアイルランド語の問題が揺曳している。例えば,ジェイムズ・ジョイスである。その代表者作品『ユリシーズ』の中では,押し付けられた言語としての英語というテーマが直接的にも言及されている。ジョイスが『フィネガンズ・ウェイク』であれほど新言語創造に向かったのは,自分の言語を欲しかったが故ではないか,という可能性が検討された。九頭見,夏目はこの課題を研究した。次に,北川は,第二次世界大戦時のイギリスでの言語統制の課題に取り組んだ。アイルランドに対する諜報活動に自ら関わっていたエリザベス・ボウエンの検討を中心にしつつ,さらに,BBC報道との関係でのジョージ・オーウェル,消防補助隊との関係でのヘンリー・グリーンの問題を検討することにも向かった。川口は,談話分析の文学・文化研究への応用方法を本テーマとの関係で検討したが,専ら言語構造の対立・選択の問題を課題とした。これらの研究内容をそれぞれ研究会で報告し,全員で論議した。次年度は,4名の研究の突き合わせを一層活発にし,有機的統一性をもった研究に高めたい。
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