本研究課題による最終年度の研究の統括を行った。平成14年度〜16年度にかけて収集した資料ならびに発表論文などを編集、加筆の上、「沈黙から言葉が生まれるとき-20世紀文学にみる歴史意識の表象」として統括(400字詰原稿用紙概算700枚)、3月末日に刊行の予定である。内容は以下の通りであるが、本研究から得られた知見として、英文学における20世紀の歴史意識の表象が、沈黙から言語に向かう変遷として捉えられる。すなわち、モダニズムの代表的作家V・ウルフの作品分析を通して20世紀初頭の歴史の激動が「沈黙」に表象されているところを起点に、次世代における大きな歴史の分断を表象する「ホロコースト文学」がその「沈黙」を引き継いで、新たな言説を生み出した。それは20世紀後半の危機的な状況を再び言語によって照射するという文学の新たな方向性を導くことによって、英文学にも大きな影響を及ぼしたといえる。そのような変化の中から、21世紀の現代作家たちが「倫理」という新たなテーマを展開していく道が拓かれた。 序章:歴史の中の時間-モダニズムからホロコーストにいたる20世紀の「沈黙」 I.モダニズムと沈黙の言語-V・ウルフ II.「沈黙」からの再生-ホロコーストを語る作家たち III.終章「対話」が紡ぐ時間-新たな地平を拓く作家たち 本研究は20世紀に焦点を当てた考察であるが、ここからさらに、次の課題として、21世紀英文学にどのような展開が見られるかという観点から、「ポリティックス」としての文学と「倫理」構築に向かう文学の二つの方向性が示唆されていることを展望として指摘した。この新たなテーマについては、次の研究段階として発展させていきたいと考えている。
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