20世紀から21世紀にいたる英文学の流れにおいて「歴史意識」の転換がどのように反映されてきたかを、20世紀初頭のモダニズムの代表的作家であるヴァージニア・ウルフを起点に、20世紀後半の歴史の激動から生まれたホロコースト文学を通して検証し、それが21世紀の現代作家たちの作品にどのように繋がっているかを明らかにした。最終的には、20世紀文学における「沈黙」という観点で、モダニズムの作家が予見した歴史の危機が「沈黙」という表象で表現され、それを引き継いだ次世代の作家たちが、ホロコーストという大きな歴史の分断を、「沈黙」から新たな言説を生み出すことで照射したことを明らかにした。それは同時に20世紀後半の危機的な状況を再び言語によって検証する文学の新たな方向性を導き出し、英文学にも大きな影響を与えた。そこから21世紀の作家たちが、人間にとって生きるとはどういうことなのか、とういきわめて倫理的なテーマを、「歴史」というコンテクストと関連付けて展開していっている。 本研究は『沈黙から言葉が生まれるとき-20世紀文学にみる歴史意識の表象』として統括された。 序章:歴史の中の時間-モダニズムからホロコーストにいたる20世紀の「沈黙」 I.モダニズムと沈黙の言語-ヴァージニア・ウルフ II.「沈黙」から再生-ホロコーストを語る作家たち III.終章:「対話」が繋ぐ時間-新たな地平を拓く作家たち 文学が、歴史意識を構築していく重要な意義を担ってきたことをあとづけるとともに、時代の混迷に或る種倫理的な方向性を志向することを通して人類の「指標」を示していること、それが現代にあって英文学からさらに越境していく「ポリティックス」としての文学を展開しているという知見に至った。
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