本研究では英国史上初の女性作家といえるLady Mary Wroth(1587?〜1651?)が描いた女性の主体構築と、Shakespeareによる女性の主体の表象を比較する。個人という概念が人々の間に生まれ始めていた17世紀初期のイギリス社会において、女性の主体はどのような文化的意味を付与され、その構築がいかになされていったかを、この比較から探究する。さらに、Shakespeare以外の当時の男性作家にも目を向け、イギリス・ルネサンス文化において女性の主体構築の表象が作家のジェンダーによって異なっていることの社会的・文化的意味を、後の女性作家の台頭と現代のジェンダーの問題に関わらせて考察する。 今年度はテーマ別にWrothの作品とShakespeareの作品を、ルネサンス期イギリスの社会的・文化的コンテクストのなかで比較することから始めた。6月には東京女子大学比較文化研究所(現所長は筆者)主催の公開シンポジウム『21世紀のシェイクスピア』で、7月には神戸女学院大学女性学インスティチュートでの「特別講演」として、その成果の一部を発表した。第一資料のほとんどが日本で手に入らないので、夏には渡英し、大英図書館およびWrothの実家Penshurst PlaceのArchivesで第一資料のリサーチをした。8月にはかねてから招聘されていたThe Shakespeare Institute(Stratford-upon-Avon)での第30回国際シェイクスピア学会で「基調講演」、'"Sorrow I'le Wed": Resolutions of Women's Sadness in Twelfth Night and Mary Wroth's Urania'を行なった。この講演に加筆した論文が『東京女子大学英米文学評論』Vol.49(2003年3月刊)に掲載された。 さらに本年度は、みすず書房より出版が予定されている『シェイクスピアを書きかえた女性:レイディ・メアリ・ロウスとイギリス・ルネサンス文化』の全6章の基盤となる草稿を書いた。
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