人の精神/脳の中に組み込まれている言語機能の構造と機能に関する理論である生成文法において、これまで提案されてきた計算操作をより計算上の効率性を高めるようなものに置き換えることは、理論の進展上必要不可欠のことである。本研究はこのような視点に立ち、生成文法理論の最新の枠組みである極小モデルにおいて、重要な概念の1つである位相の理論的・実証的に妥当な定義の発見を目指した。位相は計算上の効率性を高める役割を果たす概念の1つであり、この概念によってどのような現象が説明可能であるかを検討することは言語理論の進展上重要であると考えられる。本研究では、間接疑問文からのWH移動(いわゆるWH島の条件)及びThat痕跡現象について扱った。まず、WH島の条件についてより詳細にデータを集め、英語の間接疑問文が不定詞又は仮定法である場合、特定的なWH句に限り間接疑問文からのWH句の取り出しが可能であることを発見した。極小モデルの枠組みでは、WH島の条件は最小連結条件によって説明されるというのが広く受け入れられている考えであるが、この新たなる事実に基づき、WH島の条件を最小連結条件によってのみ説明することは不可能であり、位相の概念に基づく伝統的な下接の条件タイプの説明が必要であることを示した。That痕跡現象については、以前の枠組みでは空範疇規則によって説明されると考えられてきたが、この説明には理論的・実証的に問題があることを指摘した。そして、位相の概念に基づく新たなる分析を提示し、その分析がThat痕跡現象の言語間の差異も説明できることを示した。
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