本年度はデータ収集の面と、研究成果の発表の両方で大きな進展を見ることができた。 まず、データ面に関してであるが、近年、移動などの言語表現を複数の言語で比較する際にFrog storyと呼ばれるデータが広く用いられるようになったことをふまえて、Frog storyの日本語データを15名の日本語話者から採集し、データベース化を行った。このデータベースは近く公開する予定である。このデータは移動のみならず、視覚、コミュニケーションに関する事象をどのように日本語で表現するかに関して、他の言語との比較の上で重要な資料となる。また、英語の視覚、コミュニケーションの動詞と経路句との共起についての調査を、コウビルドコーパスを用いて行った。 研究成果の公開に関しては、いくつかの著作を完成させた。まず、本研究の理論的背景となっている認知意味論に関して、編著本(『認知意味論』)を刊行することができた。特にその中で意味的な類型論に関して一章をさいて論じた。また、本研究の中心課題である移動表現の類型論に関しては、その出発点となるTalmyの類型論の諸問題について、英語で論文を完成させた。また、移動表現の拡張としての視覚表現に関して日本語で論文を刊行することができた。これは、日本語の視覚表現に現れる移動を表す表現の性質について正面から取り上げたものとして、おそらく日本で初めての本格的研究論文であるといえる。
|