研究概要 |
平成14年度は、18世紀の代表的な自然神学詩James Thomson, The Seasonsを精読した。通常、この作品の定本とされているのは、作者Thomson生存中の最後の版本である1746年版なのだが、ThomsonのパトロンであるLyttelton男爵が編集した死後出版の版本の幾つかにおいては、大幅な改筆がなされ、またはなされようとしていて、それらの箇所は、おおむね汎神論的要素が濃厚にでている部分であることが判明した。 また、Joseph Warton, William WordsworthらのThomson評価を精読し、彼らは、もっぱら叙景詩としてのThe Seasonsを評価、もっと突っ込んで言えば、ロマン主義的要素の先駆けとしての評価を下していることが判明した。 また、学術誌『学燈』に「イギリス自然神学詩について」と題した小論を寄せ、「自然神学詩」を「詩人が、創造主により創造された全宇宙を総覧し、そのなかの秩序や調和、また背後の創造の御業を讃える詩」と定義した。しかしこのように定義した場合、18世紀詩の殆どがその範疇に入ってしまいそうだが、それには、以下のような限界を設けた。すなわち、William Cowper, The Task (1785)などは、自然描写から宗教的瞑想へと進んでゆく部分よりは、はるかに清新な自然描写の方が優れていて、時にその自然描写には、神の束縛から自由になった喜びさえ感じられる、という点に鑑み、自然神学詩とは見なさない。 これらの研究で、かねがね出版予定であった『地誌から抒情へ-ロマン主義の淵源をたどる』(明星大学出版)の刊行に向けてさらに一歩前進したことになる。
|