平成15年度はかねがね出版予定であった『地誌から叙情へ』を刊行した。笠原は本書全体の企画・編集と、序章、第4・5章の執筆を行なった。扱った詩人・作品は章ごとに以下の通りである。 序章(笠原執筆)/ジョン・デナム『クーパーの丘』(2章)/アレグザンダー・ポープ『ウィンザーの森』(3章)ジェイムズ・トムソン『四季』(4章、笠原執筆)/ジョン・ダイアー『ローマの廃墟』(5章、笠原執筆)/トマス・グレイ「田舎の墓地で詠んだ挽歌」(6章)/ジェイムズ・ビーティ『吟遊詩人』(7章)/ウィリアム・クーパー『課題』(8章)/ウィリアム・L・ボールズ『十四のソネット』(9章)/シャーロット・スミス『ビーチー岬』(10章)/叙情する風景(11章)/ワーズワスと自然科学(12章)/想像の風景(13章)/エイブラムズとイギリス・ロマン派の叙情詩の系譜(14章) 第一部は、ジョンソン博士が地誌詩の嚆矢として位置づけたデナム、ポープをはじめ18世紀前半のトムソンを取り上げ、第一義的に政治詩・農耕詩・自然神学詩である作品において、地誌的テーマが芽生えてくる跡を検証する。第二部は、18世紀中期のダイアーとグレイにおける地誌的テーマに関連して、そこから叙情性が生じてくる過程を見る。第三部は、18世紀から19世紀にかけてのビーティ、クーパー、ボールズ、スミスの作品のなかに、叙情的要素がロマン的自我として結晶化してゆく跡を追う。批評の部と称する第四部は、盛期ロマン派の作品に適宜言及しつつ、地誌的テーマから叙情性が生じてくる過程や関連テーマを扱った20世紀後半の主要論文を概観する。盛期ロマン派に至って、風景が内面化する、または逆に言えば、自我意識が外界と融合することになるのだが、そのことが孕む諸問題(とりわけ言語上の問題)を多角的に考察していくことになる。
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