ホーソーンは自分の作品を<小説>ではなく<ロマンス>であると宣言する。本研究の基本姿勢は、元来中世・ルネサンスのヨーロッパの伝統的な語りの形式である<ロマンス>から発展してきたホーソーンの<ロマンス>を、ルネサンス精神史の中で読むことにある。具体的には、緻密な時代考証に支えられたホーソーンめロマンスを、その作品の背景になっている時代の歴史や文化表象との関わりで読むことに主眼を置き、その一方で、ホーソーンが生きていた19世紀アメリカというローカルな視点をも視野に入れながら、いつの時代にも繰り返して表れる主題に迫ってゆく。方法としては前基盤研究から継続している図像的アプローチをとる。 以上の基本路線に則った平成15年度の実績は次の通りである。 (1)現地での資料収集と調査 ホーソーンのロマンスに描かれるヨーロッパ・ルネサンスの文化表象の資料収集のため、昨年のオーストリアに引き続き、本年度はフランスに出かけた。中世・ルネサンスの建築、彫刻、絵画、工芸美術の調査のため、宮殿、教会、各種博物館を訪れた。一般の文献では入手し得ない貴重な情報を得た。 (2)社会への還元 5月24日日本ナサニエル・ホーソーン協会全国大会のシンポジウム「ホーソーンと視覚芸術」で司会・講師の役を務めた。 7月5日甲南大学英文学会20周年記念公開シンポジウム「表象としての人種」(講師松村昌家、青山孝、入子文子 コメンテイター鷲田清一)で、パネリストとして「ホーソーンと人種」と題して発表した。 (3)授業での実践 学部・大学院の授業でホーソーンのロマンスを精読し、歴史や古い時代の文化表象に注目する解釈法を教えた。
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