1.19世紀スコットランド文学の趨勢とJohn Davidsonのバラッド詩 John Davidsonのゴシシズムとモダニズムが20世紀のHugh MacDiarmidのスコティッシュ・ルネサンスとスコットランド方言による作品にどのように影響したかについて論考する手がかりとして、19世紀のスコットランド文学の趨勢を批評家Kart Wittigと現代詩人Edwin Morganの文学論を比較検討し、Davidsonのバラッド詩の位置付けを行った。Wittig論の特徴は、スコティッシュ・ルネサンス以降スコットランド文学のアイデンティティとみなされた'Caledonian Antisyzygy'「カレドニア的相反」を19世紀の詩人たちにまで遡ってあてはめ、詩人と作品に見られる'a split personality'「分裂した人格」が19世紀に普遍的にあることを論証するもの。Morgan論は、19世紀をSir Walter ScottとJames Hoggの過去へのノスタルジーとセンチメンタリズムから脱却せしめたものは、グラスゴーを中心としたマイナーな労働詩人たちの労働と生活の詩のもつリアリズムとヒューマニズムであると論ずるもの。両者ともその頂点にDavidsonを置く。両論が示しているのは、「無視された」時代と言われるスコットランドの19世紀には、モダニズムの前兆と見なされる二元論とリアリズムが実際は普遍的に見られ、Davidsonのバラッド詩は、書かれた時代と内容からして、それらの集大成であったと見なしうることである。特にMorgan論はScottとHoggのバラッドへの傾斜を批判しているが、セシチメンタリズムを乗り越えたジャンルがバラッドを模倣したバラッド詩であるという逆転現象は、バラッドを過去の遺産として一元的に切り捨てることのできない複雑さを示している。 2.Songs and Rhymes from Mother Gooseの編纂 伝承バラッドとバラッド詩の多くが通常は子どもの歌と認識されるマザー・グースの歌と背景を共有したり、相互の交流が見られる。バラッドの特徴としての伝承性と他のジャンルとの交流を確認する目的で、バラッドへのリファレンスを中心としたマザー・グースのテキストを共同で編纂した。
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